変形労働時間制

 6.変形労働時間制

 (1) 変形労働時間制の意義

 一定の期間内において1週間当たりの労働時間が40時間以内であれば、法定労働時間の制限を超えて労働させることができる制度のことを、変形労働時間制といいます。
 変形労働時間制は、第三次産業の占める比重が著しく増大するなどの社会経済情勢の変化に対応するとともに、労使が労働時間の短縮を自ら工夫しつつ柔軟な枠組みを設けることにより、労働者の生活設計を損なわない範囲内で労働時間を弾力化し、週休2日制の普及、年間休日数の増加、業務の繁閑に応じた労働時間の配分等を行うことによって労働時間を短縮することを目的として制定されました。
 変形労働時間制には、「1カ月単位の変形労働時間制」「フレックスタイム制」「1年単位の変形労働時間制」「1週間単位の非定形的変形労働時間制」の4形態があります。

 (2)1カ月単位の変形労働時間制(労基法第32条の2)

 1カ月単位の変形労働時間制とは、変形期間を最長1カ月とするものです。1カ月以内であれば、10日単位でも2週間単位でもかまいません。この変形期間内を平均して1週間の労働時間が40時間以内であれば、特定の日や特定の週に法定労働時間を超えて働かせることができます。
 導入の要件としては、就業規則その他これに準ずるものにその旨を規定するか、または労使協定を締結して労働基準監督署に届け出なければなりません。
 就業規則または労使協定には、変形期間、変形期間を平均した1週間の労働時間が40時間(特例44時間)を超えない旨の定め、変形期間の起算日、各日、各週の所定労働時間、有効期間(労使協定による場合)を、記載しなければなりません。
              

 (3)フレックスタイム制(労基法第32条の3)

 フレックスタイム制とは、一定期間(清算期間)の所定労働時間を定めておき、その範囲内において始業時間、終業時間を本人の判断に委ねる制度です。
 導入の要件は、就業規則その他これに準ずるものにおいて、始業及び終業の時刻の両方を労働者の決定に委ねる旨を定めなければなりません。
 また、労使協定も必要ですが、労働基準監督署に届け出る必要はありません。
 労使協定には、対象となる労働者の範囲、清算期間(1箇月以内、起算日必要)、清算期間における総労働時間(週平均の労働時間が法定労働時間を超えない範囲内)、標準となる1日の労働時間、コアタイムおよびフレキシブルタイムを設ける場合にはその開始及び終了の時刻、を定めなければなりません。

 (4)1年単位の変形労働時間制(労基法第32条の4、32条の4の2)

 1年単位の変形労働時間制とは、1カ月を超え1年以内の期間を変形期間とするものをいいます。
 季節的に忙しい時期とひまな時期がある場合などに適しています。1年単位の変形労働時間制においては、年間の労働日について上限が280日とされていますが、3カ月以内の場合には労働日数についての限度はありません。
 また、1日については10時間、1週間については52時間が労働時間の上限として設定されています。連続して働かせることができる日数についても制限が設けられています。
 3カ月を超える変形期間を設定している場合、時間外労働の上限が通常より短くなります。
 導入の要件としては、就業規則に記載するだけでなく、労使協定を締結し労働基準監督署への届け出ることが必要です。労使協定には、対象となる労働者の範囲、対象期間、変形期間の起算日、特定期間(業務が特に繁忙な期間)、対象期間中の労働日と労働時間、労使協定の有効期間を定めることが必要です。

 (5)1週間単位の非定形的労働時間制(労基法第32条の5)

 一定のパターンがなく、日ごとに忙しさが異なることの多い飲食業や小売業などの業種を対象にした変形労働時間制が、1週間単位の非定形的労働時間制です。
 あらかじめパターンを決めておくのではなく、日ごとの忙しさに応じて柔軟に労働時間を調整できます。
 1週間単位の非定形的労働時間制は、適用できる事業が労働者の人数が30人未満の小売業、旅館、料理店、飲食店に限定されています。
 導入の要件としては、労使協定を締結して、これを労働基準監督署に届け出なければなりません。労働時間は、1日につき10時間、1週につき40時間以内になるよう定めます。これを超えた時間については時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要になります。

 (6)事業場外労働のみなし労働時間制

 事業場外労働というのは、外回りの営業担当者のように事業場の外で働くことをいいます。事業場の外で働いているので、管理者がその労働時間を把握することが困難です。このような場合、基本的には「みなし労働時間制」を適用することになります。
 みなし労働時間制というのは、実際の労働時間の長さにかかわらず、あらかじめ定めた時間を働いたことにするものです。
 事業場外労働についてみなし労働時間制を適用する場合には、就業規則に規定するか労使協定を締結することになります。
 みなし労働時間が法定労働時間を超えるときには、労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があります。当然、36協定も締結しなければなりませんし、割増賃金も支払わなければなりません。
 労使協定で定めるみなし労働時間は、1日を単位とします。1カ月を単位として設定することはできません。また、設定したみなし労働時間は環境が変われば当然変化するはずですから、一定期間が経過したら見直しすることが必要です。