メンタルヘルス管理

メンタルヘルス管理

 「精神障害の労災認定基準」に関する新通達

 厚生労働省は、平成23年12月26日付けで労災認定の要件となる「心理的負荷による精神障害の認定基準について」の通達を出しました。

 これまでは、うつ病などの精神的な病気で労災認定を受けるのは難しく、審査にかかる時間も長くなっていましたので、新たな基準を設けることとなったのです。

 認定基準の概略は下記のようなものです。

 1.精神的な疾病を発病していること
 → うつ病など

 2.発病前6か月の間に受けた業務からの心理的な負担が大きいこと
 → 例:セクハラやいじめを受けた
 → 例:発病直前1ヶ月の残業が160時間を超えている

 3.発病の原因が業務以外とは認められないこと
 → 例:離婚した、家族が他界した、などという状況ではない

 今までは具体的な認定基準が無かったのですが、新基準はかなり細かく書かれています。
 この基準に該当する場合は、すぐに「精神疾患による労災」と認定されることになります。
 
 また、これまでは全てのケースで精神科医の判定が必要でしたが、
新基準では、判断が難しいケースだけを精神科医が判定することになりました。

 これにより今までよりも審査がスピードアップすることが見込まれます。

 通達は以下を参照。
    ↓
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z3zj.html

 「心の健康問題」の実態

【1】日本における自殺者数は、平成10年度以降毎年3万人を超えるという大変高い割合で推移しています。交通事故のニュースは毎日のように流れますが、その死亡者数は平成20年度で5,155人ですから、自殺者がいかに多いかわかります。また、最近では働き盛りの中高年層の自殺が多くなっています。なぜ、自殺率が高いのかは明らかになっていませんが、少なくとも中高年を中心とする働き盛りの世代は、心の健康問題を抱えている可能性が高いのではないでしょうか。
 
【2】民間の調査機関「労務行政研究所」の調査(2010年)では、「最近3年間でうつ病など心の病気を抱える社員が増えた」と回答した企業が44・4%に上るとのことです。心の病気を抱える社員が多い年代層では、30歳代の48・2%、20歳代の47・3%が多く、20歳代では前回(08年)調査より増加しました。メンタルヘルス不調により1カ月以上欠勤・休職している社員が「いる」企業は、63.5%と6割を超え、 「いない」の34.9%を大きく上回っています。規模別にみると、規模が大きいほど休職者が「いる」割合が高い傾向にあります。

【3】また、心の健康問題を原因とする労災認定請求が急増しています。精神障害(=心の健康問題)を原因とする労災認定請求件数は、平成3年度時点でわずか2件で認定はゼロでしたが、平成11年に「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針(労災認定判断指針)」が作成されてからは、申請件数、認定件数とも大きく上昇し、平成20年度に は過去最多の269件が労災認定されています。

【4】平成20年3月から施行された「労働契約法」では、第5条に安全配慮義務として「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定めています。このように、企業が労働者の健康に果たすべき責任が大変重くなっていることは明らかです。特に、心の健康問題が労働者、その家族、事業場及び社会に与える影響は、今日、ますます大きくなっており、事業場においてより積極的に労働者の「心の健康対策(メンタルヘルス対策)」を図ることが非常に重要な課題となっています。

 ストレスとは

 ストレスとは、簡単に言えば緊張のことです。ストレスは、体の内部および外部からの刺激から引き起こされる心と体の緊張状態であり、体の内部および外部の環境との摩擦などによって生じます。

 ストレスを引き起こす原因のことを、ストレッサーと呼び、ストレッサーによって引き起こされた不安や怒り、意欲の減退、抑うつ気分などの心理的反応と疲労感、食欲不振、不眠などの身体的反応、また、それにより引き起こされた喫煙や飲酒量の増加などの行動を含めてストレス反応と呼び、これらを総称しストレスと称しています。

 職場におけるストレス要因

 職場のストレス要因としては、主に次のようなことがあります。

 就業形態  長時間労働、不規則勤務、過剰出張、交替制勤務、配置転換、
労働環境など
 仕事内容  仕事内容の変化、仕事への適性、低自由度な業務、IT化、過重な責任、
サポートシステムの無さ、努力と報酬不均衡業務など
 対人間関係  上司や部下、同僚との対立、コミニュケーション、セクハラ、パワハラ、
職場の雰囲気など
 その他  昇進、降格、事故や災害の発生、仕事上の失敗など

 ストレス症状

 ストレスの初期および慢性状態には、次のような症状が見られるます。

  初期の症状 慢性状態の症状 
目が疲れやすい 疲れがとれない
肩が凝りやすい 何をしてもすぐ疲れる
背中や腰が痛くなる 腹が張る・痛む、すぐに下痢や便秘になる
朝、気持ちよく起きられないことがよくある ささいなことで、腹が立ったり、イライラする
頭が重く、スッキリしない 人と会うのが面倒くさい
立ちくらみがする 仕事をする気が起こらない
夢をよくみる 口の中が荒れたりただれたりすることがよくある
手足が冷たくなることがことが多い カゼをひきやすく、なかなか治らない
胃がもたれる 白苔(舌の表面の白いもの)がよくつく
       体重が減る
       深夜に目が覚め、その後なかなか眠れない
       好きなものでも、あまり食べたいと思わない

 メンタルヘルス不調について 

 メンタルヘルス不調とは、「精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むものをいう。」と定義されています。(厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」2006年3月)

 ある調査によりますと、労働者の約6割がストレスを感じながら仕事をしている実態がうかがえるといいます。ストレスがそのまま放置されると、メンタルヘルス不調へ発展する可能性が高くなりますので、労働者の危険信号を察知したならば、早期に対応することが必要です。

 労働者の危険信号を察知するためには、行動面のサインを見逃さないことです。心の病気は、先に身体面や行動面にそのサインが表れることが多いのです。「普段はこんなはずでなかったのに」「最近なんだか様子がおかしい」と周囲の人が感じるような、行動面において以下の兆候がひんぱんに表れるようになったらそのサインです。
●出勤状況では、遅刻、早退、欠勤の増加が目立つようになる。
●業務関係では、集中力の低下、パフォーマンスの低下、ミスの増加が目立つようになる。
●対人関係では、協調性の低下、もめごとの増加、職場での孤立が目立つようになる。
●日常生活では、生活時間の不規則、睡眠時間の乱れ、生活態度の乱れが目立つようになる。
●その他行動面では、過度な飲酒、異性間のトラブル、ギャンブル依存、暴力行為が目立つようになる。

 メンタルヘルス不調の病気

 メンタルヘルス不調として代表的な病気には、次のようなものがあります。

①うつ病
 憂うつ、趣味や喜びの喪失、食欲低下、不眠、精神運動停止(身動きが遅い、口数が少ないなど)、「おっくう、死にたい、自分は価値がない人間だ」と思うなどの状態になります。治療法は、「休養」「薬物療法」「精神療法」という組み合わせで行われます。多くの場合、仕事などのストレス原因から遠ざけ、心身ともにゆっくりと休養する必要があります。「頑張って!」と励ますより休養を勧めます。

②躁うつ病
 「躁症状」と「うつ症状」というまったく異なる2つの症状を繰り返す病気です。「双極性感情障害」とも呼ばれます。うつ症状では、気分の落ち込み、意欲の低下、不眠、食欲不振、不安、自責感など、一般的なうつ病と同じですが、躁症状では、気分が異常な高揚状態が続くため、一見明るく開放的で楽しい感じを受けますが、時にイライラして怒りだしたりして、周囲とのトラブルが多発するなどの症状が多くみられます。

③統合失調症
 以前は「精神分裂症」という病気でしたが、誤解や偏見、差別などから2002年8月に「「統合失調症」に改名されました。おもな症状は、幻聴、幻覚、妄想などが表れることが挙げられます。話していることに脈絡がなくなる、「まわりの人が自分の悪口を言っている、誰かにつけられている」等の妄想体験などを訴えるようになります。仕事など社会的な機能に著しい低下が見られ、長期間の休職が必要となります。

④パニック障害
 恐怖感、動悸、呼吸困難、めまい、ふるえ、発汗などが表れます。例えば、人ごみ、会議室、電車、エレベーターなど逃げられない状況になったときに症状が表れやすくすくなり、電車に乗れないなど、通勤に恐怖心を覚え出勤できなくなることもあります。この突然起きる発作をパニック発作と呼び、「予期しないパニック発作」が繰り返し発生し、それらに対する不安が1か月以上続く場合、パニック障害の可能性が疑われます。常に不安を抱えているため、ストレスが蓄積され、うつ状態となることも少なくありません。

 メンタルヘルス対策の指針

 厚生労働省では、平成12年8月、メンタルヘルスケアの基本的な考え方や具体的な進め方を示す指針を公表していましたが、安全衛生法改正(平成18年4月施行)にともない、この指針の内容を踏まえながら、安全衛生法第70条の2第1項の規定に基づく指針として、新たに「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日付け公示3号)が定められました。

 事業所でメンタルヘルスケアを進めるポイント

1.継続的・計画的に実施する
 メンタルヘルスケアに関する事業所の現状とその問題点を明らかにし、その問題点を解決する具体的取り組み事項について基本的な計画(「心の健康づくり計画」)を策定し、この計画に従って継続的に取り組む。

2.衛生委員会等で調査審議すること
 使用者、労働者の代表、衛生管理者、産業医などで構成される衛生委員会等において、メンタルヘルスケアを進めるための「心の健康づくり計画」を策定し、実施する。するに際し、その実施体制、個人情報の保護に関することを十分に調査審議する。

3.4つのメンタルヘルスケアを推進すること
 ①セルフケア(労働者自身がストレスや心の健康について理解し、自らのストレスの予防、軽減あるいはこれに対処できるようにすること)、②ラインによるケア(労働者と日常的に接する管理監督者が心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談対応をおこなうこと)、③事業場内の産業健康保健スタッフ等によるケア(事業場内の産業健康保健スタッフ等が、事業所場の心の健康づくり対策の提言をおこなうとともに、その推進を担い、また、労働者および管理監督者を支援すること)④事業場外資源によるケア(事業場外の機関および専門家を活用し、その支援を受けること)の各レベルに応じた対処を継続的・計画的に行う。

4.個人情報の保護に配慮すること
 メンタルヘルスに関する個人情報の取得・保管・利用等は、法令等を遵守し適切に行う。

 メンタルヘルスケアの具体的な進め方

4つのケアを継続的かつ計画的に実施することが基本である。

1.メンタルヘルスケアを推進するための教育研修・情報提供
 ・それぞれの職務に応じた教育研修・情報提供
 ・事業場内の教育研修担当者の計画的育成

2.職場環境等の把握と改善
 ・職場環境等の評価→問題点の把握→改善
 ・管理監督者・事業場内の産業健康保健スタッフ等職場環境等の改善のための活動を
  しやすい環境整備などの支援

3.メンタルヘルス不調への気づきと対応
 ・個人情報の保護に留意しながら労働者・管理監督者、家族等からの相談に対する体
  制を整備する
 ・相談等を通じて把握した情報をもとに、労働者に対して必要な配慮をする
 ・必要に応じて産業医・外部医療機関へつなげるネットワークを整備する。

4.職場復帰の支援
 ・休業した労働者の円滑な職場復帰を支援する
職場でメンタルヘルスケア活動を取り組むみために大切なことは、なによりも労働者が自分の問題として積極的に取り組むことです。そのためには、労働者自身がストレスやメンタルヘルスに関する正しい知識を持って、心の健康問題に適切に対処することが重要です。