労働契約と解雇・退職

 2.労働契約と解雇・退職

 労働基準法違反の契約(第13条)

 労働基準法の定める基準に満たない労働条件は無効であり、無効となった部分は同法に定める基準が適用されます。

 労働契約期間(第14条)

 労働契約の期間は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(特定の業務に就く者を雇い入れる場合や、満60歳以上の者を雇い入れる場合には5年)を超えてはなりません。
 また、期間の定めのある労働契約については、厚生労働大臣が定める「有期労働契約の締結、更新及び雇入止めに関する基準」に基づき、労働基準監督署長等は、使用者に対し、必要な助言・指導を行います。

◆3年を超えて契約することが認められるもの
 1)一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの
 2)第70条による職業訓練のため長期の訓練機関を要するもの

 労働条件の明示(第15条)

 使用者が労働者を採用するときは、賃金、労働時間その他労働条件を書面などで明示しなければなりません。
 明示された労働条件と事実が相違している場合には、労働者は即時に労働契約を解除することができます。
 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合には、使用者は必要な旅費などを負担しなければなりません。

◆書面の交付による明示事項
 1)労働契約の期間
 2)就業の場所・従事する業務の内容
 3)始業・終業時間、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務を
   させる場合は就業時転換に関する事項
 4)賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払い時期に関する事項
 5)退職に関する事項(解雇の事由を含む)

◆口頭の明示でもよい事項
 1)昇給に関する事項
 2)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法、支払
   いの時期に関する事項
 3)臨時に支払われる賃金・賞与などに関する事項
 4)労働者に負担させる食費・作業用品その他に関する事項
 5)安全衛生に関する事項
 6)職業訓練に関する事項
 7)災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
 8)表彰、制裁に関する事項
 9)休職に関する事項

◆就業規則に当該労働者に適用される条件が具体的に規定されている限り、契約締結時に労働者一人ひとりに対し、その労働者に適用される部分を明らかにしたうえで就業規則を交付すれば、再度、同じ事項について、書面を交付する必要はありません。

 賠償予定の禁止(第16条)

 労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償を予定する契約をしてはいけません。

◆あらかじめ金額を決めておくことは禁止されていますが、現実に労働者の責任により発生した損害について賠償を請求することまでを禁止したものではありません。

 解雇のルール(労働契約法第16条)

 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となります。

◆ここで定められている解雇に関するルールは、一般に「解雇権濫用法理」と呼ばれ、昭和50年の最高裁判決以降裁判実務上で確立されたものですが、平成15年の法改正により法文上明記されました。

◆会社の経営不振等を理由とする労働者の「整理解雇」については、裁判例において、いわゆる整理解雇の四要件と示されたものがあります。原則として、四要件すべてを満たす必要があります。
 1)経営上の必要性
   倒産寸前に追い込まれているなど、整理解雇をしなければならないほど経営上の必要性が客観的に認められること。
 2)解雇回避の努力
   配置転換、出向、希望退職の募集、賃金の引下げその他整理解雇を回避するために、会社が最大限の努力を尽くしたこと。
 3)人選の合理性
   勤続年数や年齢など解雇の対象者を選定する基準が合理的で、かつ、基準に沿った運用が行われていること。
 4)労使間の協議
   整理解雇の必要性やその時期、方法、規模、人選の基準などについて、労働者側と十分に協議ををし、納得を得るための努力を尽くしていること。

 解雇の制限(第19条)

 次のような場合には、解雇が制限されます。
 
[1] 業務上のケガや病気で労働者が休業しているとき
 労働者が業務上でケガや病気をして、療養のために休業している期間およびその後30日間は解雇することができません。(打切補償があった場合を除く。)

[2] 産前産後で休業しているとき
 女性労働者が産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、産後8週間休業している期間およびその後30日間は解雇することができません。

 ただし、[1]や[2]の場合でも、天災事変その他やむを得ない事由によって、事業を継続できなくなった場合には、労働基準監督署長の認定を受けて解雇することができます。

 解雇の予告(第20条)

 労働者を解雇しようとする場合は、少なくとも30日以上前に予告するか、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。

 ◆平均賃金を何日分か支払った場合には、その日数分だけ予告期間が短縮されます。

 ◆天災事変そのたやむを得ない事由で事業の継続が不可能となり、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告が除外されます。

 ◆労働者の責に帰すべき事由によって解雇するときで、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告が除外されます。
   

 解雇理由の証明(第22条第2項)

 退職時の証明(第22条第1項)

 労働者が退職の場合に、在職中の契約内容などについて証明書の交付を請求したときは、使用者は遅滞なく、これを交付しなければなりません。
 なお、労働者が請求しない事項を記入してはいけません。

◆証明事項
 1)使用期間
 2)業務の種類
 3)当該業務における地位
 4)賃金
 5)退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)
 

 金品の返還(第23条)

 労働者の死亡または退職の場合で、権利者の請求があった場合には、請求を受けた日から7日以内に、賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければなりません。
 なお、賃金ま所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告が除外されます。たは金品に関して争いがある場合には、異議のない部分を、その期間中に支払い、または返還しなければなりません。

◆権利者とは、退職の場合は本人、死亡の場合は相続人をいい、金銭貸借関係にある債権者は含みません。

◆ここでの賃金とは、未払いの賃金をいいます。また、退職金については、労働協約や就業規則などであらかじめ支給条件が定められているものは賃金となります。

◆権利に属する金品とは、積立金、保証金、貯蓄金のほか、労働者の所有権に属する金銭及び物品であって、労働関係にに関連して使用者に預け入れまたは保管を依頼したものなどがをいいます。