「管理監督者」に関する裁判例

■管理監督者に関する裁判例

 「管理若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)の概念については、最高裁判例はありませんが、下級審判例が集積し、おおむね確立しています。
 それは、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが当然いう程度に重要な責務と責任を有し、現実の勤務形態も労働時間の規制になじまないような立場にある者を指すものと解されています。
 その該当性の判断に当たっては、
①労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるか、
②出退勤について厳格な規制を受けずに自己の勤務時間について自由裁量を有しているか、
③賃金についてもその地位にふさわしい待遇を受けているか、
等を、具体的な勤務実態に即して検討すべきものとされています。

 以下、管理監督者とは認められなかった裁判例を掲載します。

 日本マクドナル事件〔東京地裁判決 平成20年1月28日〕

(地位)ハンバーガー店の店長
(理由) アルバイトの採用や育成、勤務シフトの決定、販売促進活動の企画・実施等に関する権限を行使し、会社の営業方針や営業戦略に即した店舗運営を遂行すべき立場にあり、店舗運営にとって重要な職責を負っているが、職務・権限は店舗内の事項に限られる。店長は自らのスケジュールを決定する権限を有し、早退や遅刻に関して、上司の許可を得る必要がないなど、形式的には労働時間に裁量があるが、実際には、店長固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要するうえ、勤務態勢上の必要性から自らシフトマネージャーとして勤務しており、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない。平均年収は、評価によっては、すぐ下の職位で管理監督者として扱われていないファースト・アシスタントマネージャーより低額であるし、上回ってもその差額は管理監督者に対する待遇としては十分と言い難い。

戻る

  

 セントラルパーク事件〔岡山地裁判決 平成19年3月27日〕

(地位)ホテルの料理長
(理由) 本人の判断で採用や解雇が決定されたことがなく、採用を推薦することが直ちに採用につながるものでなかった。料理長として他の料理人の配置や勤務時間割を決定していたが、各料理人の昇給を決定したり、会社の労務管理管理方針の決定に参画していたことは認められない。料理長は他の料理人と同様の勤務時間に沿ってシフト表に自らを組み込み、他の料理人と同様に料理の準備・調理・盛付けを行なっており、シフト表を作成するからといって、自己についてのみ、自由に出退勤時間を決めたり、その都合を優先して休日を取るのは困難であった。賃金は、年齢・経験、他の料理人と同様の仕事のほか、料理長として行いうべき仕事を考慮すれば、管理監督者に該当しなくても、当該待遇が不自然に高いとはいえない。

戻る

  

 アクト事件〔岡山地裁判決 平成18年8月7日〕

(地位)飲食店のマネージャー
(理由) マネージャーは、店長と協議のうえ、アルバイトの採用、シフトの作成などについての権限は有するが、人件費は各店舗の売上の28%以内とされ、正社員の採用権限は有していない。幹部会議で発言権を持っていたとしても、それによって人事や経営に関する重要事項の決定に参画していたとは言い難く、メニューの決定や売上目標について、最終的な決定権を有していなかった。勤務時間について相当程度自由裁量があったとは認められない。接客業務の内容はアルバイトと変わらない。基本給が一般職より厚遇されているわけでなく、役職手当などの諸手当を合わせても、時間外手当の支払いがされていないことの代償として十分とはいえない。

戻る

  

 ほるぷ事件〔東京地裁判決 平成9年8月1日〕

(地位)支店の販売主任
(理由) 支店長会議に出席することもあるが支店営業方針の決定権限はなく、支店販売課長に対する指揮命令権限を行なう権限がなかった。タイムカードにより厳格な勤怠管理を受けており、自己の勤務時間について自由裁量を有していなかった。

戻る

  

 彌栄自動車事件〔京都地裁判決 平成4年2月4日〕

(地位)タクシー営業所の係長補佐・係長
(理由) 係長級職員は1人当たり約40人の運転手の出勤管理・配車管理等を行い苦情・事務処理を行うが、自らの業務内容、出退社時刻・不就労等につき裁量権を有せず、会社の営業方針全般を決定する営業会議への出席を求められず、待遇も職務内容に見合っていない。

戻る

  

 サンド事件〔大阪地裁判決 昭和58年7月12日〕

(地位)生産工場の課長
(理由) 工場内の人事等に関与することはあっても、独自の決定権はない。遅刻早退につき賃金カットされたり人事考課に影響を受けたりしなかったが、勤務時間の拘束を受けていて、自己の勤務時間についての自由裁量を有していない。職務内容(質・量)、給料、勤務時間の取扱いが課長昇進前とほとんど変わらない。

戻る

  

 静岡銀行事件〔静岡地裁判決 昭和53年3月28日〕

(地位)支店長代理相当職
(理由)欠勤・遅刻・早退についての制限を受け、通常の就業時間に拘束されて出退勤の自由がなく、自らの勤務時間について自由裁量権を全く有していなかった。また、人事に関する事項及び機密事項に関与したことがなく、経営者と一体になって銀行経営を左右するような仕事には全く携わっていなかった。仮に支店長代理以上の者が全て管理監督者に当たるとすれば、当該銀行の一般男子行員の約40%の者が労基法の労働時間、休憩、休日に関する規定の保護を受けなくなってしまうという全く非常識な結論となる。

戻る

  

 橘屋事件〔大阪地裁判決 昭和40年5月22日〕

(地位)本社工場の取締役工場長
(理由) 取締役に選任されてはいたが名ばかりのもので、役員会に招かれず、役員報酬なるものも受けていなかった。また出退社についても一般労働者と同じ制限を受けており、更に工場長といいながら何ら実質の伴わない形式上の名称に過ぎず、工場の監督管理権はなかった。

戻る